《詩人の涙》「ラテン音楽名曲名演名唱 ベスト100」
第5章
聴くほどに味わいが深まる永遠の名演10曲-ブラジル-
⑧-Pranto de poeta-
名サンビスタ、カルトーラが72歳の時に録音した曲。
この曲とカルトーラのことは何度も書いてきたような気がします。
繰り返しになりますが、この曲「詩人の涙」収録のLPのジャケットがこれ。。
ね、とてもシンガーには見えない。
どう見てもテキ屋の親爺。。。
この親爺の唄が素晴らしい。。。。
聴いてください。。。
-------------------------引用------------------------
「詩人の涙」は、そのギリェルミと(ギリェルミ・ジ・ブリート:詩人の涙の作曲者)彼が長年ソングライターとしてコンビを組んできたネルソン・カヴァキーニョ(1910~86)と共作した曲である。スラム地区のマンゲイラの丘に住む、貧しいが心豊かなサンビスタ(サンバ一筋の音楽家)たちの心意気がビンビンと伝わってくるようで、ぼくの大好きな歌であるが、これを72歳のカルトーラは、老いる寂しさや死と直面する恐怖と闘いながらこの歌を録音したのではないかと思う。
マンデイラでは
詩人が亡くなった時は
みんなが泣いてその死を悼んでくれる
私がマンゲイラで幸せに暮らせるのも
死んだときに泣いてくれる人が
必ずいることを知っているからだ
でもマンゲイラの涙は普通のと随分違う
というのもその涙は人々を陽気にさせるんだ
なにしろ人によっては
バンディロやタンボリンを演奏して
サンバで涙を表現するものだから (田中勝則訳)
カルトーラはこれを録音するにあたって、作者の1人であり長年の親友であるネルソン・カヴァキーニョをゲストに迎えたが、迎えるにあたっておもしろいエピソードがある。稀代の大酒飲みであるネルソンが酔っぱらっていないときに録音するにはどうすればいいか。関係者はカンカンガクガクの論議の末、ふだんはあまりやらない午前中に録音しようということになり、某日午前10時からリオのRCAスタジオで決行と決まった。そして当日、ネルソンは現れたものの、待ち受けていた一同は唖然とした。大御所はなんとべろべろの状態だったのだ。どうやら朝10時なんて起きられない、いっそ一晩飲み明かして・・・・・となった結果だった。
たしかにこの曲でのネルソンの唄いっぷりというか、つぶやきっぷりは、はっきり言ってヨレている。だが、これはいちど耳にすると絶対に忘れることが出来ない名演である。カルトーラの淡々とした、それでいてすっきりとして実感のこもった唄とネルソンのぐじゃぐじゃの唄の対照の妙もいいが、それでいて2人の呼吸がぴったり合うさまはなんともすごい。サポートしているミュージシャンたちの演奏も鳥肌が立つほど素晴らしい。7弦ギターのジノ、カヴァキーニョのカニョート、ドラムスのウイルソン・ダス・ネヴェス、ルナ~マルサル~エリゼウという強力無比のパーカッション3人組。もはや望み得ない最高の伴奏陣である。そして、最後にカルトーラが「オブリガード、ネルソン」というと、ネルソンは腹からしぼり出すような声で「オブリガード、カルトーラ」と返す。男の友情を感じさせる一瞬であり、こちらもまた「ありがとう(オブリガード)、カルトーラ&ネルソン!」と思わずつぶやいてしまう一瞬である。
------------------引用終わり--------------------
カルトーラは1980年72歳で亡くなりました。たしかこの曲を録音した歳だったと思います。